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空気であり水である大切な音楽たちに触発され、物書きリハビリ中
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枕許で、携帯が震える。
スタンドの明りの下、蒲団の中で文庫本を詠みすすめていた三上は、びくりと肩を揺らして顔を上げた。
真夜中の着信は、不安しか生まない。
それは義兄の訃報が真夜中にもたらされたからだったのか、それとも別の理由か、三上は知らない。
明滅する、着信の合図。振動は蒲団に吸収されて、常より弱い。
ディスプレイには、『真田一馬』の文字。
手にした携帯の震えが、急に愛しくなる。
「はい」
『あ、三上、さん……? 真田です』
聞こえた少し緊張気味の声に、ほっと息をつく。安堵したのを知られたくなくて、低く感情のこもらない声で「ああ」と応ずれば、途端に電話の向こう側で空気が緩んだのを感じた。
『こんな時間に、突然すみません』
「いや。どうした? 合宿中だろ?」
『……笑わない、ですか?』
「なんだよ?」
本を閉じ、躰を起こしながら問い返す。
数駿躊躇うような間があって、
『なんか、落ち着かなくて、三上さんの声、聴きたくなった』
小さな声が想いを告げた。
みかみはふ、と表情を和ませる。
自分も、同じことを思っていた。
落ち着かなくて、声が聴きたくて、けれど言えずに呑み込んで、それを誤魔化すように物語に没頭した。
自分と比べて、真田はずっと素直だ。三上は、いつもそれを愛しく思う。言っては、やらないけれど。
『三上さん? 聴いてる?』
沈黙に、不安そうな声。
三上は笑う。
「きいてるよ」
『呆れました、よね?』
「そうでもないぜ?」
『え……?』
少しくらい、素直になってみるか、と思う。
「そこまで思ってもらえんのは、悪くない」
それでもひねくれた言い方しか出来ないのは何故だろう。真田相手にだけでなく、周りは自分にとても優しいのに、差し伸べられる手に甘えることが、三上には難しかった。
けれど、そんな言葉でも、真田は真意を拾い上げてくれたようで『三上さん』と呼ぶ声が、先程よりも柔らかくなる。
「なんだよ」
『三上さんに、逢いたいよ』
囁くような願いは三上の中で甘やかに溶け、涙が出そうになった。
声はこんなにも近いのに、手を伸ばしてもそこに、求める人はいない。物理的な隔たりは、どうすることもできない。
「逢いに、こいよ」
思わずそう言ってしまったのは、真田以上に自分が願っていたからかもしれない。逢いたい、と。その躰に触れたい、と。
「合宿明けたら、そっこー逢いに来い」
『どうしたんですか? そんなこと言うの、珍しいですよね?』
「おまえが逢いたいっつったんじゃねぇか」
驚いた声に、三上は苦笑する。それはそうなんですけど、と納得していない様子が伝わり、三上は眼を細めた。
「あんま、深く考えんじゃねぇよ。おまえは素直に俺に逢いにこればいいの」
電話の向こうで、真田は噴き出した。
『三上さんって、わがまま』
「今更なにいってんの?」
『他に何か、わがままは?』
楽しそうに返してくれる真田に、三上は笑う。
付き合い始めはもっと硬かったけれど、いつの間にか、真田は駆け引きが上手くなった。
「おまえは?」
『俺?』
「そう」
『俺は、三上さんに逢えればそれで』
けれど、こういうところは変わっていない。
それを愛しいとももどかしいとも思うのは、初めの頃よりずっと、真田が好きだからなのだろう。
「それだけで、いいの?」
真田が戸惑うのが分かった。
「俺に逢いに来て、そんだけで、いいの?」
さらに追い討ちをかければ、沈黙の向こうの空気が変わった。
『三上さん、俺を、誘ってるの?』
「そう聴こえた?」
『素直じゃないな』
笑い声が含むのは、いつもの遠慮ではない。真田は一呼吸おき、口を開いた。
『後悔しても、知らないから』
「だから、しねぇっていつも言ってるだろ?」
『俺を、好きだから……?』
「いい加減、少しは自信持てば?」
それは、三上の最大限の肯定。
『三上さん』
「ん?」
『合宿終わったら、一番に逢いに行くから。だから、待ってて』
優しい声に、三上は微笑んだ。
「ああ」
『おやすみなさい』
「おやすみ、一馬」
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