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空気であり水である大切な音楽たちに触発され、物書きリハビリ中
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みんなが着替えて去った後の、部室。
忘れ物を取りに来た笠井はまだひとりそこに残っていた中西を見つけた。
茶色い髪が汗ばんだ首筋に張り付いている。夕焼けの中のその姿が、やけに色っぽく見えた。
時間が止まりそうで、笠井は言葉を探す。
「先輩は、三上先輩のどんなところが好きなんですか?」
口を付いて出たのはそんな問いで、視線の先で中西は苦笑した。
「いきなり何を言い出すのかと思えば」
「すみません」
「訊いてどうするの」
笑みを含んだ声に興味本位です、と答えながら忘れ物を取りにロッカーに近づく。
心臓はどくどくと大きく波打っていた。悟られないように、平静を装う。
「笠井は?」
「え?」
「笠井は、渋沢のどこが好きなの」
言い当てられたのは、秘め続けた思い。
「なんで」
思わず問い返し、誘導尋問と気付いて舌打ちする。
中西は楽しそうに喉の奥で笑った。
「説明、つく? 気持ちに」
「いえ」
ごまかしても無駄と、言葉少なに答えた。
「一緒だよ。俺だって言葉にできない」
「先輩」
「まぁでも強いてあげるなら、強がりなところ、かな」
「強がり?」
イメージがつかずに首を傾げる。
笠井の知る三上は、いつだって堂々として、自信があって、強い人物に見えた。
中西は眼を細めて、小さく笑う。
「そうだよ。強がり。三上は、弱いからね」
「え」
「でも弱いところ見せたくなくてポーカーフェイスでまっすぐ立ってる」
誰も、気づかなかった。
自分以外は。
それだけ見ていたということだ。
だからそれは好きになった理由ではないのだろうけれど、中西の中の特別な部分だった。
「で?」
「え、なんです?」
「渋沢のどこが好きなの」
俺にだけ答えさせるなんて不公平でしょ、無言の圧力だ。
笠井は黙って忘れ物をスポーツバッグの中に放り込んだ。
「先輩」
「うん?」
「今から何か予定ありますか」
「特にないけど?」
「じゃあ、」
話すことに抵抗がないわけではない。
でも隠し続けることにも、疲れていた。
赦される思いではないと知っているからこそ、同じように赦されざる恋をするこの男に、話をしたいと思った。
笠井はひとつ、深い呼吸をする。
「笠井?」
「先輩、ごはん、食べに行きませんか」
どちらかというと仲がいい訳ではない後輩の突然の誘いに、中西は一瞬面食らったようで、けれど真剣な眼差しにふ、と表情を和ませて、うなずいた。






中西も笠井も片想い。

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