梅雨入りしましたね。
雨は嫌です。
ああ、そうだ。
霞は会社を辞めました。
家庭の事情で。
穏やかな辞職です。
これから仕事を探さなければなりませんが、
とりあえず公務員試験の勉強でもしようと思います。
それからバイトをしようと思います。
家の近くの某レンタルショップでバイトを募集しているのだけれど、
詳しい内容がわからないのできいてみようと思います。
働かないとお金がなさ過ぎる…。
「三上を好きになるために、俺は生まれてきたんだよ」
月のない夜だった。
風のない、静か過ぎる闇の中だった。
重ねた唇と、
絡み合わせた指の、
感触が甦る。
柔らかく温かく、そして冷たい心。
後にも先にもその一言だけが、
俺の信じられるすべてなんだ。
さよならとありがとう 三
三上へ。
雪が降ってるんだ。
風のない中を満月の光を乱反射させて、雪が降ってる。
あの手紙を、読んでくれた?
それとも三上は捨てちゃったかな。
あれから俺はまた別のところへふらふらしてる。
だけどどんなに進んでも、三上のことだけは思い出す必要もないくらい思い続けているよ。
もっと早く気づくべきだったね。
2人で行った雪山で、確かに三上を半身だと思ったことを、もっと早くに認めるべきだった。
そうしたら、三上と離れなくてすんだかもしれないのに。
勝手な言い分か。
でも、本当に俺は最近そう思うんだ。
ちらつく銀の雪を見ながら、思い出すことがある。
細胞に染み付いた遺伝子の記憶のように、
忘れられない感覚がある。
三上の手はいつも温かくて、俺はいつだって泣きそうだったんだよ。
俺の手はいつも冷たくて、三上はその手を好きだって言ってくれたね。
手を繋ぐたびにどれだけ俺が三上を愛しく思ったか、三上は知らないだろう?
『手の冷たい人は心があったかいんだって』
あの日三上は笑いながらそう言ったよね。
『中西は、ほんとは優しいんだ?』
からかう口調で言ったよね。
ねぇ三上、俺は優しくなんかないよ。
今更言われなくてもわかってるかもしれないけど、
俺は臆病で身勝手で、いつだっていろんなことから逃げていた。
ねぇ、三上にとって、俺は少しでも優しい存在でいられたのかな?
置き去りにした罪悪感が、今更ながらに現れて俺を責めるんだ。
ねぇ三上、手の温かかったおまえは、心も凄く温かかった。
三上は俺を救ってくれた。
古くって気障ったらしい言い方だけど、
三上は俺の太陽だったよ。
夜道を照らす満月だったよ。
三上がいたから、俺はやってこれたんだ。
俺と同じに深い傷を負って、それでもまっすぐに生きてた三上が、
俺はいつもうらやましくて眩しくて、
少し妬ましかった。
だけど三上の手が俺を救ってくれていたんだ。
降り続ける雪のように、想いが積もっていく。
三上の傍に帰りたいって、こんなにも欲しているよ。
だけど俺は帰れない。
きっと三上に出逢ったら、俺はもう二度と三上を手放せれなくなる。
三上が嫌がっても、三上を傷つけてでも、俺はきっと三上を奪ってしまう。
俺は、俺が怖い。
愛しいから、三上には笑ってて欲しいから、
だから俺はそこへは戻れないんだ。
今更のようにこんな弁解を並べ立てる俺を、三上は怒るかもしれないね。
でも嫌いになったから置いていったんじゃないことを、
どうかわかって欲しいんだ。
三上のことをどうしようもなく愛しているんだということを、
覚えていて欲しいんだよ。
それでも三上。
もしも三上が俺をまだ好きでいてくれるのだとしたら、ひとつだけ言いたいことがあるんだ。
もしも偶然どこかで出逢ったなら、
今度こそ俺の一生をかけて三上を幸せにするから、
ねぇ、もう一度恋をしよう。
中西。